IFSとの出会い
私がIFS(内的家族システム療法)と出会ったのは、4年ほど前のことです。
それまで私は、心の仕組みや自我の働き、
そして「自我ではない私たちの意識の在り方」について学びを深めてきました。
トラウマの癒しを探求する中で、
「わかっているのに、なぜか同じパターンを繰り返してしまう」
「出会う人によって、まるで別人のように振る舞ってしまう」
そんな人間の複雑なメカニズムに、ずっと関心がありました。
そんな時に出会ったIFSの考え方に、私はすぐに惹かれました。
IFSは、「人の心には、さまざまな“部分=パーツ”が存在する」というユニークな視点から、
どんな自分も責めるのではなく、理解し、寄り添う方法を教えてくれます。
IFSに出会って初めて、
自我を強化することなく、源(すべてと繋がる本質)につながりながら、
自分らしく生きる道があると感じることができました。
IFSの基本的な考え方
IFS(内的家族システム療法)は、
「人の心は“ひとつ”ではなく、いくつもの“部分=パーツ”からできている」
という前提に立つ心理療法です。
たとえば、
「本当は休みたいけど、ちゃんとやらなきゃと思う自分」
「わかっているのに、つい感情的に反応してしまう自分」
そんなふうに、心の中でいろんな声がせめぎ合うことってありますよね。
IFSでは、それぞれの声を“パーツ”と呼びます。
どのパーツも悪者ではなく、実はみんな「私を守るため」に頑張っている存在です。
そして、そのすべてのパーツの奥には
穏やかで、思いやりがあり、知恵を持ったパーツではない
“本来の私=Self(セルフ)” がどんな人にも存在しています。
IFSのセラピーでは、パーツ同士の関係をほどきながら、
Selfの穏やかなエネルギーに戻っていくプロセスを丁寧にたどっていきます。
主要なパーツたち
IFSでは、パーツを大きく3つのグループに分けて理解します。
- マネージャー(管理者)
日常生活でコントロールを担っているパーツ。
「ちゃんとしなきゃ」「失敗しないように」と常に先回りして行動し、
私たちを守ろうとしています。
完璧主義、自己批判、過剰な努力なども、このパーツの働きです。
- ファイヤーファイター(消防士)
感情的な痛みを感じないように、瞬時に反応して私たちを守るパーツ。
食べすぎ、スマホ依存、感情的な怒りの爆発など、
「つらさから逃げるための反射的な行動」を取ることもあります。
- エグザイル(追放されたパーツ)
過去の痛みや悲しみ、恥ずかしさ、孤独などを抱えて、
心の奥に隠れている(追放された)パーツ。
マネージャーやファイアファイターは、
このエグザイルの痛みをもう二度と感じないように、
さまざまな手段を使って必死で守っています。
パーツではない私:Self(セルフ)
セルフとは誰しもに生まれながらにあり、
パーツとは異なる、自我のない在り方です。
静けさと広がり、思いやり、そして好奇心などの性質を持つ「本来の私」。
セルフの意識(セルフエネルギー)からパーツたちに優しく寄り添うことで、
心の内側のに自然な調和が戻っていきます。
IFSが目指しているもの
IFS(内的家族システム療法)が目指しているのは、
「パーツをなくすこと」ではありません。
私たちの内側にいるすべてのパーツを理解し、
その声に耳を傾けながら、
調和のとれた“内なるシステム”へと戻していくことです。
IFSでは、心を「ひとつのシステム」として捉えます。
あるパーツの行動や感情には、
いつも他のパーツとの関係や、その背後にある目的が存在しています。
どのパーツも孤立しているのではなく、
気の合うパーツがいたり、気の合わないパーツもいます。
お互いに影響し合いながら、
それぞれの視点から、私たち全体を守ろうとしているのです。
そのシステムの中心にあるのが、
思いやり・穏やかさ・好奇心・自信などの性質を持つ、
私たちの本来の意識、**Self(セルフ)**です。
「悪いパーツ」というのはありません。
対話を通してセルフがパーツを理解し、
リーダーシップを発揮することで、
パーツたちは重荷を手放し、安心し、
それぞれの役割を健全な形で果たせるようになります。
セルフにとっても、パーツは大事なリソースです。
パーツがいなければ、
私たちはこの世界で自分を表現することができません。
IFSの目指す癒しとは、
すべてのパーツがセルフのもとで信頼し合い、
内側に調和とつながりが戻り、
全体性と本来の自分らしさ(authenticity)を取り戻すこと。
セルフエネルギーが引き出され、
内側のシステムが調和することは、
他者とのより調和した関係性ももたらします。
終わりに
私はIFSと出会ったことで、
「自分の中にあるさまざまな声」を
よりフラットに聞き取れるようになりました。
今までは「好きなパーツ」の声には耳を傾けられたけれど、
「嫌いなパーツ」の声を無意識に排除しようとしていたり、
パーツ同士の葛藤に苦しむこともありました。
セルフの視点からパーツたちを見ていくと、
頑張りすぎる自分も、頑張れない自分も、
自信のない自分も、批判をする自分も、
本当はみんな、私の奥にある痛みを感じさせまいと
懸命に働いてくれているのがわかります。
どのパーツも「排除する」必要はなく、
ただ理解されるのを待っているのです。
実際に、ジャッジせずに、
パーツがそこにいることを認めるだけでも、
心の中に静けさと温かさが広がります。
パーツたちと対話しながら、
その奥にある想いに触れていくたび、
自然と自分を愛する気持ちがあふれてきます。
そのプロセスは、
「自分と仲直りすること」。
そして、誰よりも近くにいる
「自分を味方につけて生きること」でもあります。
もしあなたの中にも、
葛藤する声や、分かり合えない部分があるとしたら、
それは癒しと本来の自分へとつながる入り口かもしれません。
IFSは、その扉を静かに開くための、
優しく深いアプローチです。
